一般社団法人
日本ステンレスタンク工業会
事務局

大震災におけるマンション等集合住宅における「断水問題」と
応急給水としての「受水タンク」の役割および機能について


一、 阪神・淡路大震災の惨状と「生活用水」等の水にかかわる教訓について

1.  1995年1月17日まだ明やらぬ午前5時46分発生した大地震、阪神・淡路大地震からかなりの年月が経過いたしました。しかし、いまだに当時の悪夢がよみがえるのは、多くの平和な家族の営みが突然壊され、大切な肉親を失うなど、誰もが経験したことのない悲惨極まりない予期せぬ大惨事であったからだと言えます。
 わが国においては、これまでもこのような大地震が幾度となく起き、 その都度、大惨事に遭遇してきましたが、この大地震が引き起こしたのは、最先端都市・神戸の街並みの壊滅的崩壊や関東大震災に次ぐ未曾有の犠牲者等、あまりにも大きな被害に私ども日本人を驚愕させ、深く脳裏に刻み込まれました。今更ながら、大震災が引き起こす恐るべき脅威に対して、人間の無力さを痛感せざるを得ません。

2.  わが国は、急速な高齢化が進む中、このような大災害に対して本当に安全で安心できる生活の確保を最優先に考える人々が急速に増え、特に、「都市の防災」について関心が高まってきました。国は、近い将来発生が想定される地震を東海地震、東南海地震、南海地震に特定し、予算措置を講じ、本格的な地震に対する対応を進めてきているのも事実です。しかし、地震予知、特に直下型地震やプレート境界地震については、今日の科学技術をもってしても依然として困難であるといわれています。

3.  私どもは、このような大惨事を引き起こす大地震を想定したとき、特に都市における防災対策として、極限的な緊急時における「生活用水等」の確保に関して果たして万全であるかどうか疑問を呈するものであります。阪神・淡路大震災は、大都市における大地震を考えるにあたって、きわめて貴重な教訓与えてくれています。
 この地震は、阪神・淡路地域で24万7000余棟に及ぶ家屋の全半壊・焼失被害を出し、交通・通信・水道・電気・ガスなどのライフラインに壊滅的な被害を出し、地震直後には、被害地域のかなりの家屋で断水。火災も数多く発生し、消化用水の深刻な不足が報告されています。特に、水道に関しては、阪神・淡路地域10市7町で完全に断水。断水戸数は、全戸数140万3000戸・給水人口349万5000人のうち約90パーセントに当たる実に126万5730戸に達しました。

4.  この大規模な断水は、水道施設の生命線である地下に埋設された水道管が至る所でズタズタに切断され、全国から救援の給水車による支援にも依存しつつ、被災者に不自由な生活を最長3ヶ月という長い期間、強いることとなりました。
 被災者30万人以上といわれるこの大震災、生活の基盤を完全に破壊され、酷寒の中、家族を失った失意の人々、生き延びるため必死に戦い続けた多くの人々の心情はいかばかりかと推察されます。

5.  中でも、当初考えられていた以上に深刻であったのがこの「水」の確保でありました。
 1月の寒空の下、破損した配水管から湧き出る水を群がって汲む人々。高齢者が、毎日給水所まで徒歩で重い水をポリタンクでもらいに行く辛さ。特に深刻であったのはトイレや風呂が使えなかったこと。人々は、このような生活を水道の復旧までの長い期間強いられました。まさに、「水」を巡って、生死をかけた戦いが繰り広げられました。

6.  わが国においては、生活に必要な「水」の確保は、地方自治体の運営する水道施設に託されていますが、地下に埋設された水道管の漏水には苦労され、職員の皆さんは、漏水との戦いといっても過言でありません。水道管は、大地震に遭遇すれば破壊される危険性があるという決定的な弱点を持っています。
 特に、大都市での大規模地震の場合には、地下に縦横に張りめくらされた管路が随所で損傷し復旧には長期間かかることは容易に想定できます。阪神・淡路大震災の場合、電気、ガスが数週間という短期間の復旧に比べると、水道の完全復旧3ヶ月という期間が大地震に対する脆弱性を物語っています。

7.  断水は、「生活用水」にとどまらず、同時多発火災に対応する「消防用水」、怪我や急病人のための「医療用水」など緊急事態に対応するための「水」の確保が、平時より緊急性が高く、不足の場合の深刻さは倍加するものといえます。いずれにしても、大地震が起きれば「断水」は避けられず、既設の水道施設の活用を期待することは、たいへん危険であると言えます。
 厚生省の阪神・淡路大震災に関する報告書では、集合住宅居住者の「生活用水」の入手方法として次の手段があったと記しています。
(1) 水道管の断裂したところの湧き水
(2) 震災後に造られた路上共用水栓
(3) 井戸
(4) 近くの川、海
(5) 給水車
(6) 知人
(7) その他
 生活用水を手に入れるため「水道管の断絶したところの湧き水」を汲む被災者の苦悩に満ちた姿は、高度現代文明を享受している私どもにとっては信じがたい地獄絵巻といえます。
 また、「トイレ用水」は衛生面からも問題があり被災住民から最も多くの苦情が寄せられ、いかに惨憺たる生活が待っているかを物語っています。
 「一番困ったのは、飲料水以外の「水」、特にトイレに流す「水」の確保に苦労した。給水車は3日目から来たがその水はもったいない。そのうち、近くの家に井戸があることが分かり、家中のバケツと子供たちを動員して水汲みの毎日が始まった。」(読売1995.8.16)


二、 大震災におけるマンション等集合住宅の深刻な「断水問題」と応急給水としての「受水タンク」の役割や機能について、それぞれのポイントにおいて考えてみました。

ポイント1.
 震災対策を考えるとき、過去の例を待つまでもなく、大地震では「断水」は避けられず、「蛇口からは水は出ない」という現実を直視することが肝要といえます。

 さきの阪神・淡路大震災においては、十分な「水」が確保できず多くの被災者を苦しめました。中でも、耐震性が高く倒壊しなかったマンション等集合住宅の皆さんの生活を断水が予想以上に苦しめました。
 倒壊を免れただけに震災後も自分の居宅にこれまで通り住めるという期待は大きかった。それを思わぬ「断水」によって裏切られた形になった。外観は何の損傷もないのに「断水」によって、水を確保するための長い被災者生活が待っていました。この教訓を回避するためには、今から震災時の応急給水の充実を真剣に考える必要があります。


ポイント2.
 阪神・淡路大震災では、「水」を入れる「容器」も大変不足しました。震災では水をたくさん使います。マンション等集合住宅においては、身近に水をプールする容器として受水タンク等貯留するシステムがあることは、居住者にとって安全・安心につながります。

 「水」は人間の生命を維持する最低限のものであることは申すまでもありません。古来、人類は水の枯渇は死を意味し、容器に水を溜めて生存を確保してきました。「水」が自分の手元にないないという不安、これは、食料と同様、一人ひとりの生存に関わる危機管理の問題であります。
 自治体によっては、大地震に備え、住民に水の備蓄を呼びかけています。
たとえば、東京都では、
「一人ひとりが水を確保してください」
「そのメド 1日一人3リットル」
「水のくみ置きを習慣に」
「3日に一度はくみ替えてください」

 この3リットルと言う目安は、人間が生命を維持するのに必要な量は「成人で1日2.0リットルから2.5リットル」といわれ、この量に若干の余裕を加えた3リットルを震災時における基本水量としているとのことであります。マンション等集合住宅の皆さんに救援の手が届くまでの3日間、この程度の水量で大丈夫でしょうか。少し貧弱な発想ではありませんか。
 住民の皆様で、一度、大震災を想定し、救援の手が差し伸べられるまでの「水のくみ置き」の励行等も含め、検証されてはいかがでしょうか。  


ポイント3.
 長期間続く被災者の生活にとって、「水」を運ぶことは、重くて大きな負担となっています。そんな時、受水タンクがあれば、給水車で運ばれた水を身近な受水タンクに一旦プールし、その給水口から汲み取ることが出来ます。

 阪神・淡路大震災で被災された方々の生の声を綴った報告書では、「水」は、震災後、数日で可能となった。しかし、問題は、給水車から配給された水をポリタンクに入れ、自宅までそれを運ぶのに大変苦労した。水は行政の懸命な努力で確保されたが、被災者は、その「水の重さ」に閉口したと口をそろえて述べています。
「毎日、数百メートル離れた給水車から自宅まで運ぶつらさは、高齢者には、本当に堪えた。」
「今でもポリタンクを見ると当時の悪夢がよみがえる。特に停電していたときは、エレベーターも止まり、本当につらかった。」
このような感想を聞くと、いかに近くに給水口があることが重要であることが分ります。
 全国各所に設置されている「受水タンク」の給水口を緊急の給水活動に活用すれば、被災者へのキメ細かな救援活動が実現できます。
 なお、現在の受水タンクは、ステンレス製かまたは強化プラスチックス製でいずれも阪神・淡路大震災規模の地震に耐えうる(設計用水平震度Kh=1.0〜2.0)頑強な構造となっております。


ポイント4.
 中高層マンションにも直結給水方式が増えていますが、大地震が起きたとき被災者は、水の確保が出来ず大変心配です。「受水タンク」があれば、かなり不安が解消されます。皆様のマンションは、いかがでしょうか。

 平成3年、当時の厚生省は「21世紀に向けた水道整備の長期目標」策定、「ふれっしゅ水道計画」を掲げました。その中で水源確保、上水道の整備、老朽施設の更新、基幹施設の耐震化、配水池の増設等に加え直結給水対象の拡大も取り上げ、「3階から5階」の建物への推進を図るとしています。
 しかし、今日では、当時とは大きく変わり10階建てマンションにも直結給水方式が出現、当時の「5階程度まで」から、聳(そび)え立つ高層マンションにまで拡大し際限がない勢いです。
 居住人口は、過密になり、大地震ともなれば大混乱は容易に想定され、当時の考え方に問題があったとは思いませんが、ここまで来ると防災上から再検討する必要があるのではないでしょうが。

 神戸市の6階建てマンションの5階に住んでおられるAさんは、前掲同紙に次のように記しています。
 「家具の一部は大きく破損したものの、幸い生活をするうえで支障はなかった。そのまま住み続けることが出来、その時は、ほんとうに感謝の気持ちでいっぱいであった。しかし、断水によりこれまでの生活が一変。飲料水は近くのコンビニでしのぐことが出来たがトイレに閉口した。トイレの流す水が出ない。耐震性を誇ったわが家。快適なトイレを毎日横目で見ながら仮設トイレを使用する日々。夜間トイレのためにわざわざ1階まで降りなければならないのは、体験者しか分からぬ辛さであった。約2ヶ月間の不自由な生活を体験し、断水の怖さをしみじみ知った。」

 つぎに、「受水タンク」の災害時の活用について事例を紹介します。
 東京都墨田区の「プリメール柳島」管理組合は、墨田区に対し災害時に水を提供する申し入れを行い、「災害時おける貯水の利用等に関する協定書」を締結しています。
 同マンションには地下に容量38トンの受水タンクが2基、屋上に容量20トンの高架タンク1基が設置され、タンクには、外部への配管と災害用発電機が設置されています。合計96トンの貯水量は、1日一人3リットルとして32,000人分に相当します。
 私どもは、この事例にあるように、「受水タンク」に外部への配管と災害用発電機を設置すれば、災害時、給水車からの支援を受けることが可能と考えます。


ポイント5.
 今日の受水タンクは、通気口からの異物の進入を完全に遮断する設計になっており、また、管理も徹底されており、決して不衛生でありません。巷間、タンクが不衛生であると言われる原因は、水道水が運んだ水道管の鉄錆や汚泥の「沈殿物」であります。この事実を正しく理解していただきたいと思います。

 受水タンクが不衛生であるのは、滅菌用塩素を外に排出する通気口から入る異物が原因と指摘する人がいますが、それは大変な誤解であります。確かに、昭和30〜40年代に造られたコンクリート躯体構造水槽は、蓋も十分でなく、異物が混入し不衛生であったかも知れません。また、いまだに古い建物には、地表面下や建物の構造を利用した地下式受水槽はまだかなり存在するのも事実であります。
 しかし、今日では、今から30年以上前の昭和51年から施行された国土交通省告示で新設の受水槽は周壁や底面などあらゆる面が点検できる「六面管理方式」を採用するよう定められ、網で完全に防御する設計になっており、犯罪等、人為的な工作をしない限り困難であります。受水槽の底の沈殿物の原因は、水道水が数百キロという水道管(東京都の場合の総延長2万2千9百キロメートルといわれています。)を通って運び込まれた管の錆鉄や汚泥が沈殿物として底に溜まるのです。


ポイント6.
 受水タンクは、水道水の浄化機能(フィルター効果)という大切な役割を果たしています。生活者の胃に直接、水道水が運んだ沈殿物が入るのを防ぎ、むしろ健康を守るという重要な役割を担っていることを理解してください。

 受水タンクは、前述のように水道管から出る鉄錆や泥などの受け皿になっているのです。水道水が各家庭の蛇口から出てくる前に受水タンクで一時、水を静かに寝かせ、沈静化するのを待って、その上水(うわみず)だけを供給する機能を持っているのです。
 長い水道管を旅してきた水が、各家庭に到着した時には、同時にいろいろの不純物も運んできています。受水タンクは、それを濾(こ)す機能があるのです。私どもは、「フィルター効果」と呼んでいます。
 直結給水方式は、この受水タンクの「フィルター効果」なく、鉄錆や汚泥の混じった水が、無防備に胃の中に直接入る可能性をことを意味しています。
 受水タンクそのものが、不衛生であるのでなく、住民の健康を守る沈殿物の受け皿になっているということを理解してください。定期的なメンテナンスが必要であるのは、水道管から運ばれた鉄錆や汚泥等、底にたまった沈殿物を取り除くためです。マンション等集合住宅の住民の皆さんの健康を守る重要な役割を果たしている受水タンクを悪役のイメージに仕立てないでください。


おわりに

 わが国においては、近時、建築の耐震強度偽装事件に端を発し、その後、食品等の産地偽装問題等に拡大し国民の安全・安心がますます重要な関心事となってきました。
 そして、ここにもう一つ国民の生活にかかわる「安全」「安心」という観点から座視できない事実を述べてきました。
 私ども日本ステンレスタンク工業会は、生活用水をキープすることは誰もが大切と知りながらも、マンション等集合住宅におけるタンクレスの流れが、経済合理性の追求とポンプの高性能化のもと、華やかさと快適さを求め、聳(そび)え立つ高層にまで到達している現実に、憂慮の念を禁じえません。
 単なる業界としての小さな利害という枠を飛び越え、裏方として水の処理に愚直なまでに携わってきた私どもが知りえたこのような深刻な事実を広く皆様にお知らせすることは、当然の責務と考えます。
 是非とも私どもの意のあるところ汲んでいただきたくお願いします。


このページのトップへ■
前のページへ戻る■